【イベントレポート】「生物多様性から考える渋谷の未来」(後編)

こんにちは。「Midori_Times.net」編集部です。

前回は9月28日(日)に渋谷サクラステージ3階で行われたイベント「みんなでつくろう再エネの日!2025」から、トークセッション「生物多様性から考える渋谷の未来」の前半の模様をお届けしました。今回はそれに引き続き、トークセッション後半とパネルディスカッションの模様をレポートします。

渋谷エリアの屋上緑化とエコロジカルネットワーク

花野修平(以下、花野):私からは「エコロジカルネットワークがつくる渋谷の新しい価値」というテーマでお話します。

東急不動産は環境先進企業を目指し、東急プラザ表参道、渋谷フクラス、TENOHA代官山、東急プラザ原宿など、多くの商業施設の屋上緑化に取り組んできました。また、新目黒東急ビルや、今日みなさまがお越しになっている渋谷サクラステージなど、近年東急不動産がつくるオフィスビルはすべて屋上緑化し、緑豊かな環境を体験できる場にしています。

こうした商業施設やオフィスビルにハード面で緑を広げていくことで、生物の移動の中継地点となるエコロジカルネットワークをつくるのが私たちの目標です。生態系の損失を最小限に抑えつつ、従前以上の回復を図る都市開発を目指しています。

花野:また、緑化した施設やビルの屋上では菜園活動をしています。渋谷区の小学校の子どもたちに参加してもらい、屋上庭園で栽培したホップからビールをつくったり、テナント企業の方々と一緒に芋を収穫して、最終的にポテトチップスにしたり。ただ緑を育てるだけでなく、目に見える形で商品化まですることで、自ら関わったことがどれだけの価値につながるのか、参加者の方々に感じ取っていただけるようにしています。

グリーンアップとクールダウン|今後の取り組み

花野:続いて今後の取り組みについてお話させてください。東急不動産では「グリーンアップ」と「クールダウン」の2つの側面から活動してきました。グリーンアップは生物多様性の保全推進、地域の方々を巻き込んだコミュニケーション、PR活動の3つが柱です。生物多様性の保全活動として、指標種であるシジュウカラの巣箱の設置や、屋上菜園でのミツバチの養蜂に取り組んでいます。

また、地域の方々とのコミュニケーションとして、小学生の子どもたちに『Shibuya Midori_Times』というタブロイド紙を配布して私たちの活動を知ってもらったり、各施設に招待してワークショップを行ったりしています。今後はデジタル施策を含め、こうした活動をPRし、みなさんの行動変容を促せるようにしていきたいですね。

花野:一方、クールダウンとしては空調メーカーのダイキン工業さんと連携し、都市の気温を示すヒートマップを見ながら屋上緑化を進めつつ、プラスアルファでできることを模索しています。屋外の公共スペースなどに屋外型のエアコンやドライミストを設置し、クールスポットを設けたりもしています。

ちなみに東急不動産のオフィスビルと商業施設で使用している電力はすべて再エネ電力です。エネルギーを再エネ電力で賄いつつ、都市を冷やしていくのがクールダウンの取り組みです。

こうした活動について、今後はより多くの方の参加と行動変容を促していくのが大切です。働く人も、来街者も、地域の住民の方々も含め、関係者を増やしていきながら、商業施設に足を運ぶきっかけをつくる。それでみなさんの意識が変わってくるかと思うので、今後も活動をどんどん広げていきたいですね。

佐座:ありがとうございます。人をいかに巻き込むかというのは大事ですね。そのあたりについて後ほどお話ができればと思います。続いて日立製作所の堀さんからお願いします。

行動をデザインするということ

堀聡美さん(以下、堀):私からは再エネと行動のデザインについてお話します。これまでは生態系や企業の大きな取り組みの話が中心でしたが、ぐっとスコープを絞り、私やあなたの行動の話をしたいと思います。

私は日立製作所のストラテジックデザイン部で行動のデザイナーをしています。どうすれば人の行動を促せるのか、定着させられるのか。手法を開発して実践する仕事です。いま、環境への取り組みとして1人ひとりの行動が大切だと言われていますが、人はなかなか行動しないんですね。仕事柄、私もいろいろなサービスをつくるのですが、いくらサービスをつくっても、素敵な行動が示されても、ユーザーはなかなか行動を起こしてくれません。

そこで行動のデザインが必要になります。私たちは行動デザインを「当事者がやりたい、やるべきだとわかっているものの、できない行動を後押しすること」と位置付けています。具体的な手法としてはデータや行動科学、ヒューマンインタラクションつまり最終的な施策を掛け合わせているのですが、簡単に言えば行動の目標を立て、なぜそれが起こらないのか阻害要因を明らかにする。その阻害要因に対して施策でアプローチしていくというやり方です。

堀:再エネ行動を促すにはどうしたらいいのか。過去の案件を振り返りながら、ポイントを2つにまとめてみました。1つめは「身近な出来事で動機づけ」。2つめは「すぐできそうな、具体的で簡易なアクションの提示」です。事例として、過去に行った集合住宅でのごみ分別促進の実証実験の話を交えながら、ご紹介したいと思います。

まず1つめの「身近な出来事で動機づけ」について。人は自分に近ければ近いほど、自分ごととして行動を起こす傾向があります。ごみ分別の実証実験で事前に調査を行ったところ、分別しない理由として「みんな真面目に分別していないと思うから」「大きな影響がないと思うから」といった声がありました。その阻害要因をクリアするために、集合住宅にサイネージを設置して情報発信するという施策を打ちました。

この集合住宅には、管理人さんと居住者の距離が近いという特徴がありました。会えば挨拶するし、少し話もする。そんな関係でした。それを踏まえ、ごみが分別されないことによって管理人さんの負担がどれほど増えるのか、定量的なデータとして情報発信したんです。その結果、「こんなに迷惑をかけていたとは知らなかった」といった声があがり、自らが行動しないことで人に影響が出るのが行動の動機づけになることがわかりました。

続いて2つめの「すぐできそうな、具体的で簡易なアクションの提示」について。難しい行動、難易度の高いアクションはやる気を阻害することがあるかと思います。そこで行動の難易度を下げる、わかりやすくするしてあげるのが大切です。

実証実験の事前調査では「どうして分別しないのか?」という問いに「やり方がわからない」という声もありました。そこで集合住宅の敷地内にサイネージを設置し、ゴミの分別方法を具体的に示したショート動画を流したところ、「自治体のガイドブックでわからなかったことがわかった」といった声があがり、分別行動の促進につなげることができました。

堀:ここまでの話を踏まえ、みなさんにあらためて考えて欲しいのはまず、「再エネ行動をしないことによって、自分のまわりで起こる嫌な出来事はないか」ということ。もう1つは、「今すぐできる再エネ行動のアクションは何か」ということです。自分がすぐ、簡単にできそうだとイメージできたものは、難易度がそれほど高くないはずです。そのあたりを意識していただけると、行動につながるのではないかと思います。

パネルディスカッション

佐座:ありがとうございます。どう行動変容するか、堀さんから大きなヒントをいただきました。最後はパネルディスカッションに移りたいと思います。今日、ご登壇いただいた4名の方々は、再エネや生物多様性保全について点で動くより、みんなで横串を通していきたいという想いでここにいるかと思います。本日の内容を踏まえつつ、感想や質問を曽我先生からお願いします。

曽我:いろいろと話したいこと、聞きたいことがあるのですが、まず堀さんにご質問です。ごみの分別は負担が増える人を特定できる一方、環境問題は誰かにネガティブな影響があるのか、自分ごととして捉えにくいところがあるかと思います。どうやって自分ごとにすればいいのでしょうか?

堀:おっしゃるとおり、環境問題が自分から遠く感じるのでやる気が起きないというのはあると思います。そこで、想像力を使うのが大切かなと。私は子どもがいるのですが、環境が侵されて子どもたちの将来がどうなるかと考えるとやはり手が出ます。自分のところに引き込んだときに何が変わるかという見方をすると、アクションにつながるのではないでしょうか。

曽我:ありがとうございます。続いて東急不動産さんに伺います。東急さんの活動は本当に素晴らしい取り組みだと思うのですが、公益的な活動も多く、収益を求めざるを得ない企業としてはどのように折り合いをつけているのかなと。「生物多様性は守りたいけど、収益と結びつかないからやりにくい」という企業へのヒントがあればお願いします。

花野:緑があれば居心地がいいですし、豊かに過ごせる時間を提供する施設は、消費者、企業に選ばれやすいのではないかと思っています。実際、私が運営に携わるTENOHA代官山には、環境先進企業を目指すコーヒーメーカーのブルーボトルが店舗を出しています。先方から「環境への確かなスタンスを持った施設にお店を開きたい」という話をいただき、出店に至りました。

多くの企業がそうなるかはまだわからないものの、いま、少しずつこうした企業が増えてきているかなと。私たちが環境整備をした施設やオフィスビルに、先進的な企業に入居していただく。そんなつながりが増えてきているのではないかと思います。



ー今回は9月28日(日)に行われた「みんなでつくろう再エネの日!2025」から、トークセッション「生物多様性から考える渋谷の未来」の模様を前編後編に分けてお届けしました。生きものに配慮された心地良い街づくりを進めるには、1人ひとりが考え、行動していくこと。「Midori_Times.net」では今後もこうしたイベントを取り上げ、みなさまにレポートしていきます。次回もお楽しみに。